稲川淳一のあんまり恐くなかった話


お茶屋さん 2005/8/10

清水寺ってみなさん、あるでしょ。あそこの近くにお茶屋さんがあって。まぁ普通あるじゃないですか。小さなね、ほんと4畳くらいのスペースで、退職したてで長年夢だったお茶屋さんってことで、その妻と一緒にこじんまり経営してたんですよ。そしたらね、ある日ね、カンカン照りですよ、8月の暑い日。セミがミーンミーンってやかましく騒いでるそんなお昼前に、ある男が入ってきたんですよ。こんなに暑いのにジャンパー着てね。真っ黒いんですよ。ほんと、ゴキブリみたいなの。テラテラしてて。ほんとおかしいなぁとか一緒に切り盛りしてる妻と、なんだろね、あれね、って話してたんですよ。でもお客さんだからってことで、お水持っていって、何になさいますかって聞いたんだよ。そしたらね、カツ丼下さいって。ないよここには、だってお茶屋さんだもの。あるわけないじゃない。いよいよこりゃおかしいぞって話になってきて、聞いたんだよね、その男に。そしたらね、かぼそい声で「暑さで参ってたんです」だって。こんなおかしな話しはない。おかしいじゃない、だって暑くしてんの自分なんだから、そんな真っ黒い真冬用のジャンパー着てるの自分なんだから。

(K.W)


 

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